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「海外移住で体験したこと考えた事。三十年で出会ったもの」
東南アジアで着実に発展してきたタイ。この激動の時代三十年を起業家として生きた著者の、七転八倒の人生を伝えたい。ビジネスやプライベートで出会った人や家族、市民を従わせる者としか考えない官僚たち、ルール無用の商売人たち、偶然出会ってしまった事故や事件、経験を通し考察したこの国の社会、歴史まで。
著者: 小川邦弘
日本税理士合同事務所タイランド ogawa@nihon-zeirishi-cooperate.com

イスラム少数民族の悲劇 その2

 前回に引き続き、タイ、マレーシア、インドネシアで連日報道されている〝ロヒンギャ″についてである。

 その項にて、ミャンマー人仏教徒とベンガル系イスラム教徒であるロヒンギャの対立の背景を解説した。その後の経過であるが、ミャンマー民主政権成立前夜とも云える2012年、対立を激化させる事件が勃発したのである。5月下旬、仏教徒であるアラカン系女性が、ロヒンギャの男性3人により強姦殺人されたとされる事件が起きた。6月3日、その報復かアラカン系暴徒により10人のイスラム教徒が殺害された。8日、ロヒンギャ数千人が暴動を起こし、アラカン系民族の家屋や村を焼打ちした。アラカン系民族はロヒンギャへの暴力行為を行い、殺害、殴打、家屋や村を焼打ちした。この暴力の連鎖にミャンマー政府の治安部隊はイスラム教徒ロヒンギャの大量逮捕と実力行使を以て鎮圧したが、それに対しヒューマン・ライツ・ウォッチは、「イスラム系住民が圧倒的な複数の郡において、恣意的かつ外部交通を遮断した状態での拘禁など、重大な人権侵害が行われた」と指摘している。6月10日、当時のテインセイン大統領はアラカン州北部に非常事態宣言を宣言したが、これも国軍が適正な手続きを抜きでロヒンギャを逮捕、拘禁できるという結果を招いたに過ぎなかった。が、国軍側は今回の宗派間暴力を概ね沈静化させた、とのみ発表した。地元警察もロヒンギャの容疑者を捜索するとの名目で大量逮捕を行った。刑事犯罪を行った疑いのあるアラカン民族に対しては、捜査も身柄の拘束も行っていない模様で、被逮捕者の数や具体的な容疑についての報告は一切ない。目撃者は、ロヒンギャが多数を占める地域で、治安部隊が暴力的な襲撃を行い、住民に発砲、住宅や商店で略奪を行ったと述べた。

 これに並行し、ロヒンギャの人々の海外脱出が散見されるようになり、2009年以降は移民ブローカーも登場、その小型船舶が南タイに流れ着くに至ってこの問題が国際ニュースとして取り上げられるようになった。またタイ国軍はこの避難民に対し、彼らを保護するどころかエンジンを外した船舶に移し替え、公海上に放置した。にも関わらず避難民の流出は絶えることが無く、難破の被害も含めれば膨大な死者を生み出し続けている、と見られる。

 受け入れを拒否しているのはマレーシアやインドネシアも同様で、現在洋上には最大で8,000人が漂流していると見られている。この問題の根源であるミャンマー政府は、民主政権との呼び名はどこ吹く風、政権成立前より今現在に至っても実権を握り続ける軍の協力なくしては政権維持が覚束ないことから、国民の大多数である仏教徒の支持を脅かしかねないイスラム移民(歴史の経緯を考慮すれば彼らもミャンマー国民であるはずなのだが)の保護には手を付けかねる、ということなのであろう。という訳で当事者であるミャンマー政府やマレーシア政府の立場は、「彼らは金銭を支払い、希望して密航に身を投じている。被害者ではない」とされていることから、少数民族に対する虐殺が「人身売買」と報道されている一因でもある。

 最後に我々が居住するタイ政府や現地の状況について触れておきたい。上記「送る側」のブローカーに対し、今回明らかになったのは「受ける側」のブローカーが存在し、避難民の上陸を手助けし山中に多くの私設避難キャンプを設け、さらに彼らからカネを搾り取ろうという訳である。タイやマレーシアに居住する親族から何とか9~20万バーツを都合して支払った者は自由の身となるが、カネの無い者はキャンプに収容し、5~7万バーツで第3国に売り飛ばされる。逆らえば殴打、あるいは殺害し、土中に埋める、という極悪非道な者の存在が明らかになった。5月2日までに26体の遺体が発見されたが、40人以上が埋められた筈だという証言もある。さらに救えないのは現地の市長、警察幹部他数名の公務員が賄賂を受け取りこれを見逃していた、という結末である。タイの首相は、確かにこれらの悪徳公務員を逮捕、さらに加担していたとみられる警察官40名ほどを更迭したが、今後の対応については、「タイ人の雇用機会を奪う可能性が高いためロヒンギャの受け入れは拒否する」と表明。労働人口は絶対的不足に陥っており、数十万人の外国人労働者を受けてれている状況下でのこの発言である。

 国籍や財産も剥奪され洋上で漂う人達の行く末を、どう考えればよいのか。受け入れを表明する国は皆無なのだ。

 その後タイ政府は国際世論を意識してか、避難民の為の「トランジット地域」設置を決定した。つまり第3国へ向かうまでの保護施設という意味であろうが、どの様なものなのかについては何も明らかにしていない。との報道があった直後、マレーシア北部(つまりタイ国境に近い地域)で、ロヒンギャおよびバングラデシュ人の遺体200体が発見されたという。

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