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「海外移住で体験したこと考えた事。三十年で出会ったもの」
東南アジアで着実に発展してきたタイ。この激動の時代三十年を起業家として生きた著者の、七転八倒の人生を伝えたい。ビジネスやプライベートで出会った人や家族、市民を従わせる者としか考えない官僚たち、ルール無用の商売人たち、偶然出会ってしまった事故や事件、経験を通し考察したこの国の社会、歴史まで。
著者: 小川邦弘
日本税理士合同事務所タイランド ogawa@nihon-zeirishi-cooperate.com

待ってました「戒厳令」

 不謹慎な表題で恐縮だが、これは実感である。

 日本でも本日5月20日付で報道されている通り、タイ国陸軍司令官は本日午前3時、「戒厳令」を発令した。私は今朝出勤前に、実は日本にいる姉からのLINEによるメッセージで知った。それを聞き「ああこれでやっと政治混乱も収束するな」と思った。

 一般的な国々で戒厳令と聞けば、例えば流血の伴う事態を想像し、大丈夫だろうかと不安になるのが当たり前であるがこの国では事情が異なる。政治騒乱の際に軍隊が出動したとなれば、これを動かしたのはまさに天の声、安定した政権を据えるための、エスタブリッシュメント側からの実力行使の始まりである。そしてほとんどのケースで流血は無い。

 これまでのタイ政治史ではこれをクーデター(確かに、中身は全く違っても軍隊が出動し、時の首相の身柄を拘束し政権移譲を強制するとなれば、英語で言うところのクーデターではある)と呼び、現政権が誤った方向に向かってしまい強制力無しには修正不可能な事態に陥ると、この“奥の手”が度々実行された。ただ今回司令官は「これはクーデターに非ず」と否定している。が、それでも尚私は手法を多少アレンジしただけの、エスタブリッシュメントによる政治正常化策としての行動、という意味で全く同じものだと考える。もちろん予断を許さない状況であるので、見守ってゆく。脱稿期日までに政治騒乱が収束していることを願いつつ・・・・

 5月22日、上記にて私が予測した通り、陸軍司令官が設立した「平和秩序維持司令部」が全権を掌握(つまり、所謂クーデター)したと発表した。司令官の命により交渉の席についていた政治紛争のそれぞれの首謀者は、その場で軍施設へ移送された。実際その後の報道を見ても、対立の当事者であった前首相に対しても「礼を欠かない」「外部との連絡も出前の注文も許し」「穏健な拘束」と報じられている。「戒厳令」「クーデター」という言葉に踊らされセンセーショナル報道を今もなお繰り返す海外メディアがどう見ようが、これが過去二十数回も繰り返されてきた、至って正常な、平和裏に催されるタイ式政治正常化劇場なのである。

 私の元にも、有り難いことに私の身を案じた多くの「心配メール」や「心配コール」が日本の関係者から入り、同じ説明を、つまり「これが最良の、良心的市民の多くも望んでいた解決策の始まりなのだ」と繰り返す。法人所得税確定申告期限を来週末に控えた、この年次業務のピーク時にこれらの連絡対応に追われるのは堪らないと、メールにはひな形の文面を貼り付けて返信した。

 世間が恐れるクーデターとは一般的に、政治体制のあまりの腐敗を見過ごせなくなった軍部が自らの意志で立ち上がり、暴力を使用してでも政権奪取する。市民は軍政を恐れながらも口を封じられやむなく従う。という見方であろう。しかしタイ国軍は元々近衛師団の性格を持つ集団であって、自らの意思により暴走したことは無い。あくまで天の声に従って政治空白を埋め正常化し、やがて政権移譲するための機能を果たしてきた。もちろん暫定政権を再配する者の能力により、経済・財政・外交などの面で、そもそも手腕を備えていないケースもある。ただ過去の例から言えば(私にとってはこれが3度目の経験)その暫定政権はまず無難な政治行政を行ってきた。

 この様な歴史的背景を理解された上での報道であれば、不安を煽る様な文章にはならない筈なのだが、他社に抜かれまいという意識だけが最優先される日本の記者クラブメディアに期待すること自体がそもそも誤りなのかもしれない。 

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