第XXX話においても報告をした、昨今のタイ政府の進出企業に対する実態続編である。
前話ではタイ国投資員会(BOI)が自ら甘々で認可を与えた認可プロジェクトに対し、事業実態が認可したプロジェクト内容に沿って行われているかを厳格に調査しているという話であった。
このクライアントさん(IT事業)については、元より認可事業に当たる部分、つまりソフトウェア開発の売り上げが総売上高の10%にも満たず、売上の殆どは親会社から輸入したソフトのカスタマイズおよび販売なのである。奨励が打ち切られることもあり得る状況であったのだが、弊社が逐一、BOIからのデータ提出要請や質問に対する対応をアドバイスし、インタビューにも同行、その後BOI内部での審議を経て、約3か月を要したが何とか事業奨励認可の継続という結果を得た。のでその判断基準が逆に良く分からないのである。想像するに、暫定政権からのお達しに従い、ためにする調査、審議を行っているのではないか。
さて、その後も他のクライアントさんの手続きにおいて、理不尽とも言える厳格審査の例が相次いでいる。
弊社にて本年3月の登記手続きから会計税務一切を依頼されている輸出企業に関わるものである。3月20日、商業開発省における法人設立登記が完了、翌日には管轄税務署にて付加価値税登録を申請、受理されている。通常はその後一か月程度でその登録証(ポーポー20、当地では官公庁に関わる申請書や証明書の書式の殆どにこの様な略称がある)。例えばこのポーポーとは、付加価値税、タイ語でPaasii Rakkhaa Phuumの頭文字からタイ文字でภ.พ.と表記され、付加価値税に関わ
るすべての書式はポーポー何番と呼称される。話が逸れたが、実務上、この登録証が無くとも受理された申請書(ポーポー01)のコピーを保管していさえすれば毎月の申告に支障が無いため、当法人のポーポー20が送付されないまま半年が経過してしまった。そろそろ年次決算の準備を始めるこの時期になって担当マネージャーが税務署に問い合わせると、「審査担当が交代しており、この登録に関しては追加書類の提出が必要である」と寝耳に水の回答があった。その書類とは、
① 看板を視認できる事務所入り口と内部の写真(申請時に提出済み)
② 事務所の賃貸契約書(同上)
③ ビル・オーナー側の施設使用許可証(同上)
申請受理された半年後になって提出済みの書類を再度提出とは呆れ果てたものだが、さらに「調査したところこの事務所は会計事務所と同一住所にあり、会社法上登記は許可されない筈」とまで云われた。まず、当のビルは土地建物登記局の登記上、部屋番号が表記されていないため、全く無関係の7社の登記上所在地がすべて同一なのである。そして何よりも、商業開発省登記局がすでに登記申請を受理し手続き済みの法人を税務署が認めない??よしんば登記後に制度が変更されたとしても法制上「不可逆訴求」によりその地位や権利は侵されないというのが世界の常識だ。もし私が当の審査官と直接話をしていたらひと悶着あったのは確実だが、それはクライアントさんの利益にならないのでマネージャーに任せ、手続きは済んだ様である。
さらに、当法人がその直後2名の従業員を雇用し、即座に社会保険加入の手続きを行ったが、またもや上記賃貸関連書類の提出を追加提出させられた。いったい何を目的とした厳格化なのか、法常識も整合性もまるで無視した対応に驚く。
この様な状況では、私自身が前面に立つことを極力避けるしかあるまい。軍事政権イコール反民主主義という、欧米を中心としたテレタイプ式批判にはかなり嫌悪を抱く私だが、今はちょっと賛成。