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「海外移住で体験したこと考えた事。三十年で出会ったもの」
東南アジアで着実に発展してきたタイ。この激動の時代三十年を起業家として生きた著者の、七転八倒の人生を伝えたい。ビジネスやプライベートで出会った人や家族、市民を従わせる者としか考えない官僚たち、ルール無用の商売人たち、偶然出会ってしまった事故や事件、経験を通し考察したこの国の社会、歴史まで。
著者: 小川邦弘
日本税理士合同事務所タイランド ogawa@nihon-zeirishi-cooperate.com

軍事政権の功罪

 現政権の状況については、昨年の政権掌握時点(世に云うクーデター)より数回にわたり報告している。タイではそれ以前の数年間、タクシン派勢力が莫大な資本力により謂わば「カネで政権を買い取る」時代が続き、その様な状態に辟易したエスタブリッシュメントの示唆を受けた軍隊が選挙によらない政権奪取を行い、その結果は主に都会の知識層を中心に大歓迎されたのである。

 そしてその後数回にわたり報告した通り、行政行為に於ける厳正なる綱紀粛正が進められた。公務員の収賄、あるいは手続の瑕疵が発覚すれば即日の更迭、という取り締まりが現在も継続しており、というよりは際限なくエスカレートしている。あまりの脅かしが効き過ぎ、公務員はすべての手続きに於いて極度な臆病に憑りつかれ、当たり前に進めて来た業務を意識的に滞らせるという本末転倒の状況に陥ってしまった。彼らにしてみれば、許認可さえ出さなければ何のリスクもない訳だ。

 例えば法人登記から営業開始までには商務省登記局、管轄税務署、社会保険事務所、外国人常駐者が居ればさらに出入国管理局、労働省の許認可が必要となるのだが、公表されている必要書類を完璧に作成してもあらゆる追加書類を要求され、その要求に対応し四苦八苦しながら次の許認可申請に取り掛かると、すでに他省庁により申請受理されている申請内容にまで口を出し門前払い、「フリダシにもどる」ことさえある。元より本来の意味での法治主義が成立していないお国柄、お役人様が白を黒だと言えば「これは黒でございますか。仰せの通りで。」で済んでしまう側面もある。なのでこの様な事態にあっても市民からの苦情は皆無の様だ。

 これがバンコク市内での手続きであればまだ被害は小さいが、他県へ出張しての手続きとなると事態はさらに深刻だ。因縁を付けられる毎にバンコク、地方役所、クライアント企業の間を右往左往させられる。最初から規定通りに行っている管轄税務署と社会保険事務所の申告書上の差額に目を付け、それが適法と(つまりお役人様ご本人の御無知によるものであったのだ)知ると、その申告方法を採用している理由書??をクライアントさんに作成させろと言い、また長距離を往復し提出すると、その文面が短すぎるからもっと長文のものを持って来いと、これまたご無体なご要望なのである。地方のお役人様が作文の御添削まで・・・何と至れり尽くせりの行政であろうか?

 また、8月末頃にはこんなニュースも報道された。タイ国トヨタ自動車が製造・販売しているハイブリッド車「プリウス」について財務省関税局は、部品の現地調達率が基準に達していないとの理由から、これが完成車の輸入と見做し約110億バーツ(約370億円)を追徴課税した。トヨタ側は「プリウスの生産は日タイ経済連携協定(EPA)の取り決めに従ったもの」と反論し、税務裁判所に提訴した。これは現在も係争中であり、プリウスの生産は9月末を以て終了となった。この様なトラブルは今に始まったことではないが、今や当地の基幹産業である自動車業界、そのトップ企業として業界を牽引する者に対しての扱いとしてどうなのか、という政策判断は無いのか。

 これらを勘案すれば、現軍事政権に於ける経済政策の成果は推して知るべし、各関係政府機関が発表するGDP成長率見通しは、下方修正の連続である。‶正しい行政手続き″はもちろん民主国家の基本であるが、その行き過ぎが民業の圧迫・経済発展の妨げになっていることに是非気付いて欲しいものだ。

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