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「海外移住で体験したこと考えた事。三十年で出会ったもの」
東南アジアで着実に発展してきたタイ。この激動の時代三十年を起業家として生きた著者の、七転八倒の人生を伝えたい。ビジネスやプライベートで出会った人や家族、市民を従わせる者としか考えない官僚たち、ルール無用の商売人たち、偶然出会ってしまった事故や事件、経験を通し考察したこの国の社会、歴史まで。
著者: 小川邦弘
日本税理士合同事務所タイランド ogawa@nihon-zeirishi-cooperate.com

非常事態という名の‟おまつり“

 日本のニュースでも報じられている通り、バンコク中心部の主要な交差点7か所が反政府勢力により封鎖された。当然マスコミは、正に封鎖され集会の行われている現場のみを切り取って報道する為、まるでバンコク市民の生活が危険に晒されているかの様なイメージを与える。しかも政権側は非常事態宣言まで発令してしまった。しかしその実態はどうなのか?

 先ず、タイにおける政治システムの背景を説明しなければ正確な理解は得られない。この様な2大勢力の不毛な争いに陥る以前、この国ではしばしば軍のクーデターによる政権交代が行われた。

 ただこのクーデターも、実は健全な政権交代を行うために確立されたシステムであった。何故か?タイという、一面で超近代的、別の面では中世からの保守的身分制度を堅持する国では、選挙制度というものがすでに民主政治を行うためには機能しないのである。そのカギは、国民の大多数を占める農民たちが保持する票の取り込みだ。いとも簡単に現金による票集めが可能であれば、選挙自体が民主政治に反するのだ。

 そこで、政権が国益に沿わない方向へ動くあるいはその恐れがある場面になると、この国を本当の意味でコントロールしてきたエスタブリッシュたちが軍を動かし、首相の身柄を拘束する方法で無血クーデターという“健全な”政権交代を実現させてきた。このシステムが機能不全を起こし始めた頃から、さらに金銭で動員された大衆が反政府運動の原動力として利用される様になったのが現在の姿である。

 つまり動員された民衆は、人権や政策批判に目覚めた民衆ではない。現実に、舞台に立つ演説には役割としてシュプレヒコールを送るが、興味を持つのは合間に行われるコンサート等のエンターテイメントと日当だ。そして封鎖された地域の中、ニュースで放映されない、集会の周辺では、縁日の様に露天商が軒を連ね、一般市民は夕涼みのそぞろ歩き、ショッピングを楽しんでいる。通常、露天商は管轄警察署の管理下にあるが、政府が微妙な状態になると警察も下手に手を入れられない為、抜け目の無い露天商たちがこの空白地帯を見逃す筈も無く、この地域に集結する。普段売っていないものが集まれば、物見高い庶民がさらに集まる。これが“非常事態”の「実態」だ。そして我々、現地で働く者も通常通り業務を行い、この周辺地域で生活をしている。私自身もこの縁日の中心にある地下鉄の駅をほぼ毎日利用している。不便を感じるのは車で移動する際に、この地域の迂回を強いられることくらいである。

 この平和的な反対運動を尻目に国会議員選挙は2日前に強行され、野党側の立候補ボイコット、一部地域の投票ボイコットの結果、政治情勢は予断を許さないが、それでも波が引くように沈静化の兆しを見せている。

 この非常事態地域の平穏さが、この国の本当の底力を象徴している様に思えてならない。
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