弊社役員執筆の下記著書につきまして、すでにクラウドファンディング上での支援者募集は終了しておりますが、
ペーパーバック2,000円、電子書籍1,500円にてご注文を承っております。
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「海外移住で体験したこと考えた事。三十年で出会ったもの」
東南アジアで着実に発展してきたタイ。この激動の時代三十年を起業家として生きた著者の、七転八倒の人生を伝えたい。ビジネスやプライベートで出会った人や家族、市民を従わせる者としか考えない官僚たち、ルール無用の商売人たち、偶然出会ってしまった事故や事件、経験を通し考察したこの国の社会、歴史まで。
著者: 小川邦弘
日本税理士合同事務所タイランド ogawa@nihon-zeirishi-cooperate.com

「税務署や金融機関の国際情報交換」について

Q: 以前より各国の税務署間で情報交換が行われているという話は耳にしておりましたが、現状ではどの様になっているのでしょうか?

A: そうですね。5年前位からでしょうか、日本の個人給与額も含む情報交換が各国の税務署間で行われていました。それがここへ来まして、対象は金融機関、証券会社にまで広がっています。規定ではその目的を「当該各国の相応機関の税徴収、税法の施行手続に関連し、便益を享受する」ことに限られています。また情報交換を要求する契約国の相応機関は要求書を作成し、タイ国の関係機関に送付しなければならない、とされています。この様な随時の要求に応ずる情報交換の他に、定期的な財務情報の報告も義務付けられています。
 この動きにより、給与合算申告や価格移転に対する税務調査が加速してゆく可能性があります。

**お知らせ**
「源泉徴収税率軽減措置の継続」
 2020年4月より軽減措置が実施されている源泉徴収税率が、2023年1月1日より1%(法定上は3%)で引き続き2025年12月31日まで継続されます。施行令は3月付にて発出されましたが、歳入局より事前に各社会計担当宛て情報が出されている筈ですので、問題はありません。
 対象となる所得は下記の通りです。
① 40条(2) 人的役務提供報酬、仲介手数料、相談料、顧問料他)
② 40条(3) ロイヤリティー、技術指導料他
③ 40条(6) 専門職費用
④ 40条(7) 請負報酬
⑤ 40条(8) その他サービス料  

<タイの税務関連記事>
タイに於ける税務の特徴

「税還付請求に対する税務調査」について

Q 弊社は製造業ですが、半年ほど前に付加価値税の還付申請を行ったところ、先週になってこの還付に対する税務調査を行うとのことで、出頭要請がありました。弊社の業績は不振でずっと赤字続きなのですが、この様なケースの税務調査に対する心構えなどアドバイスいただければ有難いです。

A 全く不合理な話ではあるのですが、2年前に歳入省が行った減免税プログラム(2016年4月月報に掲載)の影響で税収減となり、しかもその際このプログラムに登録した中小企業に対しては2018年1月1日に開始される会計年度まで一般税務調査は行わないことになっており、その結果税還付申請に対する税務調査は異常に厳しい態度で実施されています。

とくに赤字申告の企業に対しては、全く還付をしないレベルまで損金を自己否認・修正申告をさせるか、繰越欠損金をほぼ全額放棄させるか、その様なお達しが出され、各管轄税務署もこれに従っている様です。
似た様な事態は1997年の通貨危機以降にも経験しておりますが、税務署の態度は財政の事情によりあからさまですし、またその様なやり方も「税務官の裁量権」により公に認められていますので、日本人経営者としては全く受け入れ難い要求をされても、揉め事にならない範囲でじっくりと腰を据えて交渉に当たるべきだと思います。

税務官は他件も抱えているので早く実績を上げようと御社の同意を急かしてきますし、ローカル・スタッフも役人を恐れる傾向にあり、経営側に同意を促してきますが、納税者側に急ぐ理由は無いので、逆にあれこれと交渉を持ちかけ焦らすことで少しでも妥協を勝ち取る戦略ともなります。もちろん納税者には不服申し立ての権利が認められています。

法人設立→会計税務・経営管理にまつわるQ&A 1

1 「駐在員の日本給与立替精算に係る税務」について
Q 昨今は日本の税務署も、駐在員に支払う駐在期間に於ける日本給与について、駐在国に於ける費用とすべきという方針を徹底しつつあります。ただつい最近になって現地法人より、立替給与精算においても税務申告が必要になったとの報告がありました。
 どの様な内容なのかご教示いただけますでしょうか?

A 従来、立替精算については税務申告の対象外というのが共通認識でした。言わずもがな、現地法人の費用を日本法人が立て替えた→現地法人は日本法人に返済した、これだけのことです。何の消費も利益も生じていません。しかし2~3か月前より、「税務署から源泉徴収とVATの申告をすべきとの指摘を受けた」という話を耳にする様になりました。当初私は当然のことながら、「単なる立替精算に課税されることはあり得ない」と主張し無視していました。ところが最近になって、当局は「送金先である外国法人は、
送金元の現地法人に対し派遣業務と同様のことを行っているので、これは利益送金と見做す」と、信じ難い見解を示し、送金時には源泉徴収を行い、翌月に申告納税、同時にVATも発生するとして納税(ただし同時に還付分に加算)という、海外に対するサービス料送金と同様の手続きを義務としました。全く納得のいかない内容ですが、当面従う他無いと思います。

2 「受注取消により生じたコストの請求」について
Q 当社は電子部品の製造を行っておりますが、この度顧客側の都合により受注が取り消され、弊社としてはすでに親会社より主要な部品を輸入しており、しかもこれらは他製品に流用できない物で、大きな損害が生じました。この処理方法として、親会社からのコストの請求を受け、さらに顧客に対して請求を行わなければなりません。どの様な証憑を発行したら良いか、また通常の販売とは異なる税務処理がありましたらアドバイスお願いします。

A 先ず仕入に対する親会社からの請求ですが、通常のインボイスまたはデビットノートを発行してもらって下さい。また、御社から顧客へは、インボイスを発行します。その際、これは損害に対する補てん請求ですのでVATは発生しません。

タイ歳入省の税捕捉術

多くの発展途上国と同様、当地の納税者は一般的に納税意識が高くはない。個人商店で買い物をすれば、催促をしても公給領収証はなかなかいただけないし、それでも会社費用として計上するのだからと付加価値税税額表(Tax Invoice/Receipt)の発行を求めれば、付加価値税分の支払いをここで初めて求められる。また法人経営と直接関係する例では、賃貸契約はするがオーナー側の事情で領収証は出せません、などと堂々と言われることがある。いずれも納税逃れが目的であることは間違いない。呆れたことに日本人経営の個人企業においても、このようなローカル事業者を見習い、言を左右にして領収証を発行しないという例もある。

また常々思うのだが、高速の入り口にある料金所で料金を支払う際、ここでも要求しないと領収証を渡されないことが多い。利用台数を考えれば大変な金額に上る支払いであることは間違いないのだが、支払った金銭の行方が心配になる。
つまり国家経済のかなりの部分が、証憑類や税務処理を介さない闇経済の中で行われているということになる。税務署員が極端に少ない(2~3万人)という徴税側の問題もある。
税務側の対抗手段としては、多くの取引に対し源泉徴収義務を課し、税務申告を待たずに徴税を行っている。国内取引に対しては物品以外のほぼ全て、例えばサービスの提供、請負業務、賃貸、広告業、コミッションの支払い等々に対し2~5%を課税する。ほぼすべての海外への支払い(利益送金)に対しては15%が課され、銀行送金の際には為替管理の目的もかねて支払い内容を示すインボイスその他のエビデンス提出が求められ、銀行側からも源泉徴収手続きが求められる。配当金の支払いに対しては国内・海外を問わず10%が課される。
また付加価値税の処理がインボイス制であり、毎月の税務申告イコール確定申告、という制度にも現れている。ここでは前月度の仕入れ・会社費用と売上額、それぞれ発生する付加価値税額を待ったなしで申告し、売上VATの金額が仕入VATの金額を上回る分を納税しなければならないのである。
また税務調査においては、担当税務官が調査の上、積み上げた税務申告上の瑕疵について納税側に説明する。ここで税務処理上の事実を証明すべきなのは税務官側ではなく、納税者側が如何に正しい処理・税務申告を行ったかの立証義務を課される。税務官が推定した内容は基本的に正しいものとされ、そこから導きだされた追徴額が裁定として有効とされる。
 時々、極端な例を妄想してしまったりもする(まったく事実無根です)。

弊社の顧客であった故人H氏の労働許可証返却を3月あたりに依頼されたとする。労働省へ出向くと担当官は、「この方は2015年の個人所得税確定申告を行っていませんので、申告納税を行ってからその申告書、領収証の写しをご持参の上当手続きにいらしてください」「え?故人に署名をしろということですか?」「いいえ、ネット申告ができますから署名は不要です」
申告を行った上で再度出向くと、「確定申告は生前におこなうべきものですから、申告遅延ということで罰則金および延滞金分を修正申告された上で、その申告書、領収証の写しもご持参お願いします」「えーー?」故人からでも徹底的に徴税しようというこの努力、実に見上げたものではないか。