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「海外移住で体験したこと考えた事。三十年で出会ったもの」
東南アジアで着実に発展してきたタイ。この激動の時代三十年を起業家として生きた著者の、七転八倒の人生を伝えたい。ビジネスやプライベートで出会った人や家族、市民を従わせる者としか考えない官僚たち、ルール無用の商売人たち、偶然出会ってしまった事故や事件、経験を通し考察したこの国の社会、歴史まで。
著者: 小川邦弘
日本税理士合同事務所タイランド ogawa@nihon-zeirishi-cooperate.com

タイの憲法改正・政権の行方

去る8月7日、憲法改正の是非を問う国民投票が実施された。
 直前までの予想では、現政権と対立する勢力である親タクシン派(政党はプア・タイ゛タイのために″の意)はもちろん、最大野党である民主党の党首までが「内容に非民主的要素がある」ということで反対の意思を表明していたことから、私も「これはすでに四面楚歌状態」と考えていた。
 しかし蓋を開けてみれば、何と61%の支持を得てこの案は可決されたのである。この結果に対し各メディアは、「政治騒乱を鎮圧し、国家の平和を維持してきた現軍事政権を過半数の国民が支持した結果」と報じているが、本当にそうだろうか?
 農民(特に大票田の東北地方において)に対する無茶なばらまきや票の買収で、これまで選挙戦では常に優位であった親タクシン派にしたところで、本音はどうであろう。国際常識的には、国民投票というものは為政者が政権を賭して国民に信を問うためのシステムであるのだから、当たり前には否決なら政権交代が必至となる。しかし現政権のプラユット首相はこの世界の常識を知ってか知らずか「否決されたらまた新改正案を練れば良い」と豪語していたのだ。これでは反政権派にとっては、自らの主張通り否決を勝ち取れば、総選挙までの日程をさらに長引かせ、現政権が居座ることに協力する結果を招くのだ。誰よりも票集めには圧倒的な力を維持していると見られる同派が待ち望むのは総選挙である。ここは建前と本音を使い分けたとしても不思議ではない。
 また、そもそも論に立ち返れば、この国には権力闘争が民主主義という皮をかぶって行われているだけであって、本来の意味の議会制民主主義は存在したことが無い。これが日本を含めた海外メディアが常に事実を見誤ってしまう原因なのだが、そこには国家の成立からこれまでの歴史のなかでどう民族が移動し、勢力を育んできたか、というところに鍵がある。
 第一は中国南部雲南から南下したタイ族、この中で勢力を結集した者たちが大河に沿って歴代王朝を築きながら現在のバンコクまで下ってきた。かつて「生活ソング」で一世を風靡したバンド、「カラバオ」の「メイド・イン・タイランド」という歌の中で「チェンマイ、スコータイ、ロッブリ、アユッタヤー、トンブリ」とその流れを歌っていた。ただこの歌の主張するところは「こんなに素晴らしい歴史を持つタイなのに、今メイド・イン・タイランドと言えるものはなんだろう」と世間に疑問を投げかけるものであった。「生活ソング」の人気は根強いものがあり、地方都市へ行けばログハウス調のオープン・パブが必ずと言っていいほどあり、このジャンルの生バンドが出演し綿々と受け継がれている。それはいい。この人たちは官僚、軍隊、警察の中で一定の勢力を持ち続けていると言われている。
 第二は、中国が貧しかった時代、潮州(現在の広州方面)から移住し、肉体労働者(クーリー、苦力)から身を起こし、やがて大きなビジネスを起こす者も珍しくなかった、現在タイで一般的に華僑と呼ばれる人たちの多くを占める者のルーツである。財閥企業の創業者もこのグループ出身の者が多い。
 第三は「客家」と呼ばれる民族、商売が巧妙で、他の華人から常に「客」つまりよそ者扱いされるというのがその語源と言われる。タクシン家はまさにこの客家出身である。苦行などはせずに高学歴で、官僚として力を蓄え、その地位を利用し莫大な資産を築き上げた。
 これらの勢力が覇を競いながら、また一面ではタイ人として融合し同化し、形作られているのがタイ社会であって、これまで長く続く政治騒乱もこれら三派の争いだとも云える。「出生地主義」つまりタイ国で生まれた者はタイ人である、として教育を受け成人する、この同化政策がタイ社会に資した影響は非常に大きく、この争いが表面化する以前は優秀な官僚たちに率いられた政治的安定を誇っていた国であったはずだ。この独特な政治文化をを新参者のタクシン派が、偏った利益供与を背景としたポピュリズムを「民主主義」と偽り破壊した、というのがすべての始まりだった。

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