1997年に起きた通貨危機後の財政再建と、それでも衰えることのない直接投資に適応するためタイ国では「2000年会計法」が制定・施行された。
施行後、グローバル化の流れにしたがい、様々な会計上、税務上の新基準が適用されている。法人税関連では、親子あるいは関連会社間取引における利益調整を規制するための移転価格税制、税務当局が適正な税収を得るため廉価販売を規制する市場価格制などが主なものである。ただし後者はグローバル化をお題目に拡大解釈し、推定課税の権利を極力利用しているという批判もあるが・・。また個人所得税関連で重大なのは、合算申告である。
当地にカレンダー年の内180日間以上滞在した者はタイ居住者と見做され、日本を含めた海外で得た所得もすべて合算し一旦当地で申告納税し、その記録を以て他国での申告を行わなければならない、という規定である。日タイ間では二重課税防止協定が交わされているので、支払い超過分があれば還付請求は可能である。
当時税務当局は、数年のうちにすべての外国系企業に調査をかける、各企業の業種業態・規模・役職により、税務署が調査をした給与水準により推定課税も可能、と息巻いていた。しかし実際にはその様な人的余裕もなく、一般税務調査にともないインタビューを行い、税務官も「所得の内タイに持ち込んだ額を加算し修正申告をしたらどうか」という程度のものであった。
ところが数か月前より事態は激変した。
調査のターゲットとなった人物の、日本での所得申告内容を税務署に問い合わせ、日本側も直ちに公文書として回答してくるという協力体制ができ上っていたのである。この場合は推定課税に対する交渉の余地もなく、有無を言わさず脱税として取り扱われる。修正所得額に罰則金、数年間の延滞金(1.5%/月)が加算され、ひと財産と云えるほどの金額が追徴された。特にこのケースでは、日本側において非居住者として源泉徴収を行っていなかったため、最悪の結果となった。日本で納税がされているケースでは、合算した総所得と、それぞれの申告額との差額が問題にされるはずである。
これはここタイだけの話ではなく、在インド日系法人でも同様の事例があったそうだ。全世界的に税務当局のネットワーク化が進んでいる可能性がある。
かなりの在日本企業が海外拠点に軸足を移してゆく昨今、すでに日本の税務当局も在外法人に関わる費用、特に長期出張者の給与、そして海外への投資に対する利益還元を重要調査項目としており、会計税務の世界でも国境というハードルが無くなる時代へと変化が始まっている。
この様な時代には、当然のことながら海外業務の経験が皆無の企業であっても海外進出を余儀なくされるというケースが多々ある中、事業者は更なる緊張感、慎重な判断を強いられる。云うまでもなく、海外へ出れば我々は外国人、全くのアウェイ・チームとして扱われるのだから。