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「海外移住で体験したこと考えた事。三十年で出会ったもの」
東南アジアで着実に発展してきたタイ。この激動の時代三十年を起業家として生きた著者の、七転八倒の人生を伝えたい。ビジネスやプライベートで出会った人や家族、市民を従わせる者としか考えない官僚たち、ルール無用の商売人たち、偶然出会ってしまった事故や事件、経験を通し考察したこの国の社会、歴史まで。
著者: 小川邦弘
日本税理士合同事務所タイランド ogawa@nihon-zeirishi-cooperate.com

尖閣問題の陰で (その1)

一月末、ふと思い立ち二十歳の頃からの友人、私が人生で最も影響を受けた人物であるHに電話を入れた。いつもの通り冗談話でもするつもりであったが様子がかなり変だった。

かれは数十年前より中国で製造工場を二か所経営しており、不況の影響はあるものの深刻な問題など無かった筈である。

彼曰く、尖閣問題がピークに達したある日のこと、彼の工場に自治体の役人が乗り込んできて、帳票その他の書類関係を粗探しした。もとより彼はリスク・ヘッジの為一切自らの名前は登記せず、社名、経営実態も独立当時から信頼を置いている香港人女性Cの企業として運営してきた。しかしその実態は彼が日本で経営をしている輸入販売会社との取引が100%であり、日本叩きが目的で調査をしかけてきた役人には恰好の獲物であった。「販売先はすべて日本じゃないか。これじゃあ実際は日系企業だな」ということであれこれと経営者を追い出す規則を考え出し、彼女が出国をせざるを得ない様追い込んだのである。

当然のことながら、身の危険を感じた彼女は命からがら中国を出国したのだが、こともあろうに当の自治体は、経営者の居ぬ間に、しかも超法規的にその工場を接収してしまったのだ。

彼女にしても自身の半生に渡り取り組んできた生活基盤である工場を設備ごと召し上げられ、残ったのは買掛金のみとなったのである。彼の地で大きな金銭トラブルを起こせばどうなるか、火を見るより明らかであろう。

その直後彼女は自殺未遂にまで追い込まれた。そして命は取り留めたものの、そのまま行方をくらましてしまった。中国社会の一端を見せつけられた思いである。

そこまでは「大変だなあ」と思いながら、当人はすでに成功者としていつ引退しようが悠々自適の身であったので、東京とバンコクという距離的な感覚のギャップもあり、失礼ながら私自身は身を外において心配をするのみであった。

その時にはまさか、それがとんでもない事態に発展するなどとは想像もしていなかったのだ。

数日後本人から連絡があり、彼女の行方も未だ知れず、本人は心労から酒浸りとなり仕事も手付かず、肝臓を悪くして「もう通院診療をできる段階では無い。すぐに入院して貰うしかない」と医者に宣告されたという。それでも医者嫌いの彼は、そんな状態でも未だ
入院を拒んでいたのだ。私には「とにかく頼むから入院してくれ。体以外のことはすべて後回しでいいじゃないかと言うことしかできなかった。

更に2日後、また本人から電話が入り、」「前夜に倒れて救急搬送された。肝硬変で肝臓はまったく機能してないらしい。このままではいつ何があってもおかしくないと医者に言われた」そんな事態を本人から告げられるとは・・・。私は言葉を失った。

急なことで何をどうしたら良いのか判断できず、一晩眠れずに考えた末、「すぐに会いに行こう」と出発準備に取り掛かったのだが、その朝には連絡が途絶え、頭の中では最悪の事態が起こったのだという思いを抑えきれない。しかも動こうにも行き先が分からない、という堂々巡りの事態に私自身も陥ったのである。

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