ラグビー日本代表が歴史的大躍進を実現し、日本には俄かラグビー・ブームが訪れた。新日鉄釜石が連勝に連勝を重ねた「松尾ジャパン」の時代以来、低迷していた日本ラグビーが世界の舞台で活躍し、4年後のワールドカップ日本開催を控え最高の御膳立てとなった。
この様な事態になるとはまったく想像もしていなかった私は、あの歴史的快挙の対南ア戦を見てもいなかったのである。翌日日本の姉からそのことを伝え聞いて、「えっ?それってラグビーの話?」と惚けた反応をした後、慌ててYOU TUBEの動画を探し、あの、最後の連続攻撃を見て感涙に咽んだ。ネットで日程を確認し、対スコットランド戦はバンコクのパブで観戦(結果は残念!!中3日のスケジュールと主審の厳しすぎる判定に悪態をつきながら)、対サモア戦はハノイのヒルトン・ホテル内にあるスポーツ・バーで観戦(家族連れで来ていた子供がバー内を走り回っていたので、ウェイトレスに苦情を言って大人しくさせ)、対アメリカ戦は、何と高校時代のラグビー部チームメイトと群馬県の磯部温泉の宿で観戦(すでにトーナメント進出の可能性は潰えていたため、冷静に勝利を噛みしめた)
しかも中心選手の五郎丸が、スーパーラグビーという、南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアで行われている、世界最高レベルとも云えるリーグ所属のチームにスカウトされ、近々に契約という素晴らしいニュースまで飛び込んで来た。
オールジャパンや五郎丸が更に活躍を続ければ注目度は高まり、低迷気味のラグビー人口が増え、選手層が厚くなっていけば、これが願ったり叶ったりであることは紛れもない。
しかし、しかしである。約40年前、早稲田大学全盛の頃、日比野監督の著書「早稲田ラグビー」を授業中に盗み読んで大泣きしていたオールド・ラガーとしては、五郎丸人気に対して素直になれないのだ。昨今は国際試合に於いても、トライを上げる毎にそのプレーヤーに抱きついたり、歓喜を大げさに表現するチームが多い。しかしトライも勝利もあくまで15人全員のものであるはずだ。「ラグビーにヒーローはいない。フィフティーン全員が身体を張ってゴールラインまでボールを運んだ結果がトライなのだ。」という日比野理論に一度染まってしまった私たちには、派手なプレイを見せた選手だけを持ち上げる昨今の風潮に物申したくなる。スクラムで生きたボールを出したフォワードの8人、特に最前列のフロント・ロー、敵の選手のひざ下に刺さる様なタックルをする者、敵の足元に身を挺して飛び込みセービングでボールキープをする者、そのすべてのプレイがトライに集約されるだけのことである。騒がれている張本人の五郎丸の態度を見よ、自らのトライやペナルティー・キックの結果を誇る動作をしたことがあるか?彼こそがその早稲田ラグビーの申し子なのであるから、当然といえば当然のこと。
我々の現役時代、この考え方はほぼ選手たち全員に浸透しており、トライした選手に「ナイストライ」の声は掛けるが、決して騒がず。本人は淡々と次のプレイに向かう。これが真のラガーなのだよ。と声を大にして言いたい。