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「海外移住で体験したこと考えた事。三十年で出会ったもの」
東南アジアで着実に発展してきたタイ。この激動の時代三十年を起業家として生きた著者の、七転八倒の人生を伝えたい。ビジネスやプライベートで出会った人や家族、市民を従わせる者としか考えない官僚たち、ルール無用の商売人たち、偶然出会ってしまった事故や事件、経験を通し考察したこの国の社会、歴史まで。
著者: 小川邦弘
日本税理士合同事務所タイランド ogawa@nihon-zeirishi-cooperate.com

タイ国における税務の特徴と対策

納税者としての法人にとって申告納税上の日本との大きな違いは、先ずVAT(付加価値税)を毎月申告納税すること、源泉徴収のカテゴリーの多さ、それに法人所得税で言えば、損金として計上できる費用の範囲が狭いことであるかと思う。   
今回はこの3つのテーマについての概要を述べる。

1 まずVAT(Value Added Tax、付加価値税、日本の消費税に近い)だが、法人がVAT登録企業である場合、これはほぼ100%の企業に当てはまることではある。ただ教育・出版、あるいは100%生鮮品を扱う企業の場合には売上に対するVATの対象外、従って仕入や費用で支払ったVATも還付対象外、ということになる。
当月のVATは翌月の15日までに算出し、納税分があれば申告と同時に納税することが求められている。ここで押さえておくべきことは、この毎月の申告が確定申告であるということ、またこの申告が同時に各企業の収益額の報告も兼ねており、税務当局にとっては、企業間の取引・金銭の流れを把握し、税収を上げるために非常に有効な制度となっている。また、確定申告であるため、申告漏れや申告遅延、あるいは不正還付請求に対する罰則金も大きいので、正確な税計算が求められる。
 また、もう一つ認識しておくべきことはVATの負担者は最終消費者であって、取引経過の中に位置する法人は、VATの負担者では無いということ。まず仕入れ時にパーチャスVATを支払うが、この額は申告時に還付分に加算される。また、販売時に受け取るセールスVATは、申告時に納税分に加算される。この両者、つまりパーチャスVATとセールスVATと相殺の結果、納税分が上回る場合には納税を行い、還付分が多い場合にはデビットとして翌月に繰り越すか、または還付請求を行う。結果、税負担は生じない。
 
実際の還付については以前に比較すればかなり迅速化されてはいるが、やはり還付前の税務調査は厳しく行われている。従って、輸出が中心の企業などでは還付分が増加する一方となるので還付請求は必須だが、国内販売が中心の企業は月次申告上、相殺を継続してゆけば、余計な税務調査を受ける必要がない、ということになる。

2 次に源泉徴収についてだが、先ずはタイの場合、源泉徴収義務が生ずる適用範囲が非常に広いことが挙げられるかと思う。例を挙げれば、請負サービス、コミッション、賃貸料、広告費、海外への利益送金、製造販売であっても量産品では無い受注生産品の販売は源泉徴収の対象となる。元より源泉徴収とは税徴収作業を法人に移転し、徴収漏れを防ぐという税務側の意図を以って制度化されたものである。当地のビジネス文化の中で、納税意識の低さということが関係しているとも言える。

源泉徴収税において理解しにくいのは、源泉徴収義務者と税負担者が別である、という点である。例えばサービス料等の支払いの際、支払者が源泉徴収義務者、つまり支払金額から源泉分を差し引いて支払い、その額を翌月7日までの申告と同時に納税する義務がある。従って実際の税負担者は源泉分を差し引かれた対価のみを受け取った側であるということだ。源泉徴収である以上、この税負担者は税額票を保管し、確定申告の際に法人所得税と相殺ができる。

また、源泉徴収義務者がこれを怠れば、税負担を肩代りしなければならないという厳しい規定になっているので、これも常日頃、注意すべきことの一つである。

問題なのは確定申告の際に赤字申告であったり、つまりこれは相殺をする相手である法人所得税の納税が生じない場合だが、また業務の性質上、源泉徴収分がどうしても法人所得税額より上回り、支払超となってしまうケースもある。

この様なケースでは制度上還付請求を行うべきだが、還付を行う際には非常に厳しい税務調査が行われるので、請求を行う納税者企業が、常に正しい会計・税務を行っているという自信を持っていなければ、藪蛇となってしまう結果が予想される。したがってこれも慎重に考えなければならない。次の項で説明する法人所得税の中でもポイントとなる、「費用の厳正な業務関連性」も考慮する必要がある。

3 法人所得税については、日本の場合に比して損金と認められる費用の範囲が非常に狭く、
厳正に業務関連性が求められる。また例えば接待交際費は売り上げに対する割合が定められており、これは現在売上高あるいは資本金の0.3%、の内どちらか大きい額と規定されている。
であるから中小企業であって、特にサービス・請負収入が中心の企業にとっては無きに等しいものと云える。超過分は確定申告時に益金に加算し、法人所得税を算出しなければならない。 また海外から赴任する者にとっては必要不可欠な住居賃貸料は、法人名で契約をして支払っていても、個人所得に加算して申告する必要がある。つまり最初から個人で負担した方が手間は省ける、ということである。

また、税務調査でよく指摘されるのは、外国人の為だけに費用負担するレンタカー代、出張費、外国人の高額給与である。但し、その企業が適正利益を計上し、法人所得税を支払っていればあまり問題にされない傾向にあると云えよう。
また反面、近年日本の税務当局は在外関連企業に関わる国内法人の費用負担について、最重要調査項目としており、海外赴任者の給与は現地法人負担とせよ、また製造会社では技術供与、技術支援のための出張費も現地法人負担を求める。これは言ってみれば双方の税務署が税金の奪い合いをしている訳である。
納税者側からすれば、「一体どうすれば良いのか税務署どうしで決めて欲しい」というところだろう。

また近年、グローバル化の名の元に「市場価格制」「価格移転税制」という考え方が採用され、これも適正税収を得る、これは税務側の理屈だが、このためのルールとして定着している。
タイの税務で言う「市場価格制」とは、納税者が「税務側が調査の上把握している、各業種業態における粗利率」(ただし非公開)と比較して著しい廉価販売をしていると認定した場合、その差額について修正申告を求めることができる、という規定だ。かなり制度を拡大解釈し税収増に利用している訳だが、この場合の修正は売上高とVAT双方の修正に罰則金・延滞金が加算されるので、納税者にとって非常に厳しい結果となるのだが、これは実際に日常茶飯の様に実施されている。
また「価格移転税制」についてだが、通常海外に進出している親子会社間の取引において、価格を調整することによって、不当に利益を移転し納税を免れている、と認定されれば、これも同様に修正申告を求められる。これに対しては、製品価格算出についての基準を明確にし文書化しておく、という理論武装をすることで対抗するべきである。

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