弊社役員執筆の下記著書につきまして、すでにクラウドファンディング上での支援者募集は終了しておりますが、
ペーパーバック2,000円、電子書籍1,500円にてご注文を承っております。
https://camp-fire.jp/projects/view/547272
「海外移住で体験したこと考えた事。三十年で出会ったもの」
東南アジアで着実に発展してきたタイ。この激動の時代三十年を起業家として生きた著者の、七転八倒の人生を伝えたい。ビジネスやプライベートで出会った人や家族、市民を従わせる者としか考えない官僚たち、ルール無用の商売人たち、偶然出会ってしまった事故や事件、経験を通し考察したこの国の社会、歴史まで。
著者: 小川邦弘
日本税理士合同事務所タイランド ogawa@nihon-zeirishi-cooperate.com

時事コラム2015-2016 第5回「国境SEZ(特別経済開発区)」

現政権が昨年の発足時より進めてきた、カンボジア、マレーシア、ミャンマー、ラオス各国との国境に設置される特別経済開発区(以下、SEZ)が、着実に制度化され、進んでいる。その目的は先ず、①AEC(アセアン実効化)の成果を確実なものにすること、②バンコク周辺の開発一極集中からの分散化であろう。

特に①については、AECの主目的であるカネ、ヒト、モノの自由な流通を促すためタイ政府が行ってきたアジア経済回廊へのインフラ投資の成果として注目すべきものだ。さらにこのSEZ地域以外においては制限されている「近隣国からの非熟練労働者雇用」を自由化した。これらの政策によりアセアンの巨大市場を活性化させるという成果は、想像に難くない。
SEZ指定地域は、
西のミャンマー国境にターク県(タイ中部の古都スコータイの西方)、カンチャナブリ県(バンコクの西方、戦場に架ける橋で有名な観光地)、北にはチェンライ県(中国方面から南下したタイ王朝が最初に国を打ち立てた地域)、東北のラオス国境にはノンカイ県(メコン川を挟みラオスの首都ヴィエンチャンを望む地域)、少し南下したナコンパノム県・ムクダハン県(こちらもノンカイ同様、ラオスとタイを隔てるメコン川に友好橋が架けられている)、東のカンボジア国境のサケオ県(ベトナム戦争時、多くのインドシナ難民キャンプが設置されていた地域)、カンボジア国境の南端に当たる、海に面したトラート県、そしてタイ南部マレーシア国境のナラティワートとソンクラー県である。

またタイ投資委員会(BOI)も当政策に歩調を合わせ、投資奨励策の変更を実行している。
先ず、SEZ10地域それぞれにおける地域性を考慮した奨励業種を定め、この地域内で指定奨励業種への投資を行えばBOIから付与される恩典を手厚くする、また1015年1月よりすでに廃止されている6業種(家畜飼料とその成分製造、建設用資材および高圧コンクリート製品の製造、ボディーケア製品の製造、日用プラスチック製品の製造、パルプあるいは紙製品の製造、工場・倉庫用の建物開発をこの指定地域限定で復活させた。
z1
また通常のBOI奨励業種においても、SEZで投資を行えば恩典を手厚くするという政策も発表されいる。すでに労務費が高騰し高付加価値製造品でなければ市場競争力を失ったアセアン内での先進地域と、まさにこれから労働集約産業を定着させようという後進地域が協力し、産業と市場の活性化を図るには、的を得た政策だと考える。ただしアセアン地域全体としては、ECの轍を踏まぬ為の施策を十分に考慮すべきだろう。

時事コラム2015-2016 第4回「新憲法制定の行方」

2014年5月22日の軍部による政権成立(いわゆるクーデター、これを単に非民主的な独裁制と言いきれない事情は過去の記事で述べた通り)以降、新憲法法案を巡ってはこれまで政党間または内閣と政党や関連委員会の間で議論が繰り返されている。

新憲法草案委員会(CDC)は、すでに草案の95%は完成しており間もなく全容を明らかにすると発表しているが、依然大きな対立点は解消されておらず、行方は分からない。

先ず第一に草案第44条「治安大権」、これはこれまでの政治騒乱の経験から、治安維持の為緊急の判断が必要となった場合には、必要な手続きを経ずに政権が判断を下し、その決定に従って行政が動くことを目的としている。つまり「いわゆる軍部によるクーデター」を反民主的行動として国内外から批判されることを回避し、合法的な行為と憲法で定めてしまおうということである。理解できぬでもないが、やはり非民主的行為を成文上で合法化するという意味で国民に受け入れられるのは困難ではなかろうか。しかも最近の議論では、全国的な発電所建設の決定までのこ大権に含めようという意見まで出ている。これは理解に苦しむ議論で、やはり為政者の利権確保が目的ではないかという気もする。

第二は、「非国会議員の政府首班任命」。これも選挙の意義を大きく損ねる事態を招きかねず、言うまでも無く議院内閣制の完全否定である。

これらは新憲法制定→総選挙実施→新政権成立後の政治騒乱を想定した制度固め、という意味で一面では理解できるものの、これが国民に理解されるかどうか疑問ではある。つまり一般の民主主義国家ではその基礎である選挙というものが、そもそもこの国では買収行為によって無意味にされ、カネで政権を買うことが実際に起こり、その結果利益享受派と知識層との間で政治騒乱を繰り返すというストーリーを経てきたことが、すべての苦悩の原因なのだ。

しかしもう一つの側面として、以上に挙げた様な政治と行政システムの内容まで一国の憲法に定める必要性があるのか、もちろん法制論上では否である。通常これらは一般法で定められるべきと考えるが、これも上記と同様、選挙後の新政権に対し予め不信を抱かざるを得ず、従って新憲法上で予め皆法制化してしまえ、という意思の表れであろうことを、ここまで筆を進めて思い当たった次第である。

委員会の方針では、7月にも新憲法に対する国民投票が行われる、ということになっている。

時事コラム2015-2016 第3回「日本から鉄道システム輸出」

シーメンス社製のBTS車両
JR東日本は丸紅・東芝との共同出資会社をタイに設立、この企業によりタイの高架電車BTS(Bangkok Mass Transit System)の新設ラインに車両を提供、併せ信号・軌道・電力・ホームドア・自動運賃収受システム・車両基地等におけるメンテナンスまでの一式を受注、2016年に開業することが決定した。

海外の鉄道システム一式供給契約は日本にとって初めてのことである。これまでBTSは、ドイツ・シーメンスの牙城であったのだから、我々在留邦人の面目躍如、でもある。ただしバンス―地区からバンヤイ地区は、残念ながら我々にとっては殆どご縁の無い地区なのだが。バンスーというとタイ最王手、しかも王室系財閥である「サイアム・セメント」の企業城下町として有名だ。バンヤイはと云えば、申し訳ないがこのニュースを見聞きするまでは全く知らなかったというのが正直なところ。都心からは北西の方角にある。
 
車両そのものはJ-TREC(株式会社総合車両製作所)が供給することになっている。耳慣れない社名だが、2011年設立のJR東日本100%資本の車両メーカーらしい。

バンコク市内の大量輸送機関自体まだ歴史が浅く、1999年にこのBTSの運行が開始されたのが最初で、その後地下鉄のMRTが開通した。運営主体はどちらもBMCL社(Bangkok Metro Public Co., Ltd.)である。それ以前のバンコク庶民の足は、路線バスのみであった。タイ国鉄も市内を走ってはいるが、本数も路線も極端に少なく利用価値は薄い。かつて私は北タイのチェンマイ発バンコク行きの車両を2両チャーターした経験があり、当然団体を引き連れホームで待機していたのだが、入ってきたその列車から切符に記載されたNO.の車両がそっくり抜けており、冷や汗どころか倒れそうになった。

結局車両NO.が違っていただけで問題なく乗車できたのだが、まあその様な緩い時代であったということだ。
日本の鉄道システムの優秀さは広く知られ、すでに上述のバンコク⇔チェンマイ間の高速鉄道受注も報じられている。

時事コラム2015-2016 第2回「前首相の犯罪」

タイの政権は、カネで国家権力を買ったタクシン・シナワット時代が長く続き、その権力奪取の過程での汚職が追及され犯罪者となった彼は結果的に国外逃亡し、彼はそのまま海外で流転生活(といっても有り余る資産をお持ちなので、あちこちの国で豪邸暮らしをできる身の上だが)を送っている。その後政権は対抗馬の民主党に移譲されたが、タクシンは海外に身を置きながらありとあらゆる手で政権を操り、政治・行政に全く縁の無かった実妹、インラック・シナワットを農民票の買収により首相に据えた。逃亡中の犯罪者である彼が、あろうことか法律を捻じ曲げてでもと政権復帰を画策し、法常識では「超法規的措置」とされている恩赦を「立法化」しようと試みた。そして農閑期の農民に日当を支払いバンコクの中心にある大交差点を占拠させるなどの無謀な圧力をかけたのだが、やがて暴徒と化したタクシン勢力下のデモ隊の一部が武器を使用し、またいくつかのショッピングセンターやビルに放火するに至り、これを軍隊が制圧し、暫定軍事政権により、吹き荒れた政変の嵐は沈静化したのである。

そして現在、その軍事政権はインラック元首相に対し、上記の買収工作に伴って行った政府によるコメ買取政策で国家財政に莫大な損失を与えたという罪で訴えを起こしている。つまり権力を乱用し国庫負担で政権維持を図っていたということだ。これは早晩、有罪となり巨額の損害賠償も求められることは確実と言われている。

その状況下でインラック前首相は、これも兄の指示なのか似た者兄妹なのか、一時は検察庁幹部を逆起訴するなどという暴挙に出たこともある。いったいどこの国で「容疑者が検察官を訴える」ことが許されるのだろう。この様に法律も裁判制度も一切無視した悪あがきを続けているのである。

さらに最近になって、欧州議会がインラック前首相を「個人的に」招待した、と報じられた。元より欧米の政権からは。「選挙によらない手段で成立した軍事政権」は全てステレオタイプ式に「悪」と批判されており、その批判を利用したタクシン派が前首相の国外逃亡を画策し欧州議会に働きかけたもの、と見られている。外国で今まさに裁かれようとしている容疑者である前首相を公人ではなく“個人的に”招待するという矛盾、またこの招待自体を内政干渉とは云わないのであろうか?

時事コラム2015-2016 第1回「五郎丸はスーパーヒーローか?」 

ラグビー日本代表が歴史的大躍進を実現し、日本には俄かラグビー・ブームが訪れた。新日鉄釜石が連勝に連勝を重ねた「松尾ジャパン」の時代以来、低迷していた日本ラグビーが世界の舞台で活躍し、4年後のワールドカップ日本開催を控え最高の御膳立てとなった。

この様な事態になるとはまったく想像もしていなかった私は、あの歴史的快挙の対南ア戦を見てもいなかったのである。翌日日本の姉からそのことを伝え聞いて、「えっ?それってラグビーの話?」と惚けた反応をした後、慌ててYOU TUBEの動画を探し、あの、最後の連続攻撃を見て感涙に咽んだ。ネットで日程を確認し、対スコットランド戦はバンコクのパブで観戦(結果は残念!!中3日のスケジュールと主審の厳しすぎる判定に悪態をつきながら)、対サモア戦はハノイのヒルトン・ホテル内にあるスポーツ・バーで観戦(家族連れで来ていた子供がバー内を走り回っていたので、ウェイトレスに苦情を言って大人しくさせ)、対アメリカ戦は、何と高校時代のラグビー部チームメイトと群馬県の磯部温泉の宿で観戦(すでにトーナメント進出の可能性は潰えていたため、冷静に勝利を噛みしめた)

しかも中心選手の五郎丸が、スーパーラグビーという、南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアで行われている、世界最高レベルとも云えるリーグ所属のチームにスカウトされ、近々に契約という素晴らしいニュースまで飛び込んで来た。

オールジャパンや五郎丸が更に活躍を続ければ注目度は高まり、低迷気味のラグビー人口が増え、選手層が厚くなっていけば、これが願ったり叶ったりであることは紛れもない。

しかし、しかしである。約40年前、早稲田大学全盛の頃、日比野監督の著書「早稲田ラグビー」を授業中に盗み読んで大泣きしていたオールド・ラガーとしては、五郎丸人気に対して素直になれないのだ。昨今は国際試合に於いても、トライを上げる毎にそのプレーヤーに抱きついたり、歓喜を大げさに表現するチームが多い。しかしトライも勝利もあくまで15人全員のものであるはずだ。「ラグビーにヒーローはいない。フィフティーン全員が身体を張ってゴールラインまでボールを運んだ結果がトライなのだ。」という日比野理論に一度染まってしまった私たちには、派手なプレイを見せた選手だけを持ち上げる昨今の風潮に物申したくなる。スクラムで生きたボールを出したフォワードの8人、特に最前列のフロント・ロー、敵の選手のひざ下に刺さる様なタックルをする者、敵の足元に身を挺して飛び込みセービングでボールキープをする者、そのすべてのプレイがトライに集約されるだけのことである。騒がれている張本人の五郎丸の態度を見よ、自らのトライやペナルティー・キックの結果を誇る動作をしたことがあるか?彼こそがその早稲田ラグビーの申し子なのであるから、当然といえば当然のこと。

我々の現役時代、この考え方はほぼ選手たち全員に浸透しており、トライした選手に「ナイストライ」の声は掛けるが、決して騒がず。本人は淡々と次のプレイに向かう。これが真のラガーなのだよ。と声を大にして言いたい。